失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




ひときわ大きな岩がそそりたつ

階段が岩場をくり貫いて

奥に続いている

洞窟に近い空洞がこんな岩山の

テッペンにあるなんて奇怪な光景だ

「…この奥?」

ヤツがマジな顔で先輩に尋ねる

「うん…ここの奥…みたい」






日差しがなくなるだけで

スッと涼しくなる

岩穴に切った擦りきれた階段を

奥に辿ると

いきなり岩をくりぬいた部屋

のような空間が広がった

「ここか…!」

岩室の中に小さな赤いお堂が

ひっそりと奉ってあった

この洞窟そのものが自然の社だった




「偉い上人がここで断食して神を

見たんだって」

今は昼だからまだ光が入るが

夜中にここで独りで座禅…

怖すぎる

「コレ…天然の教会みたいデスネ」

後輩の良く通る声が響く

「とにかくお参りしよう」

先輩の言葉に皆が狭い足場に立った

「歌おう」

ヤツがお堂を見ながら言った

「えっ?マジで」

「ここで歌うと良く響いて上手く

聞こえるだろ?」

「そういう理由かよ」

「いや…さっきもう正式に挨拶は

したんだ…ここでは魂の叫びを聴い

てもらいたい」

「…なんか説得力」

いつもなら引く先輩は真面目な顔で

そう言った

「では…サビは皆でユニゾるのだぞ

ナヲさん!」

「ハイ!1・2・3・4」

ヤツは歌い始めた




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