失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
そう
恋してもいい
こんな良い子なのに
キラキラした少し傾いた日射しの中
座り込んだ僕の横に立つ彼女は
なんの屈託もなく上から下りてくる
二人を笑いながら見上げていた
胸がいっぱいになる
明るくて
悲しい
僕のいる場所と違っていて
「センパイ…?大丈夫デスカ」
「え…あ…うん…大丈夫」
「時々…スゴク悲しそうな顔シマス
ネ…センパイは」
見ているんだ…僕のこと
僕は少し驚いた
「そっか…見たな!」
「センパイは上のお二人と違って
あまり沢山話さないから…顔を見て
クウキ読みマス」
空気が可笑しかった
「あはは…空気読んでるんだ…うん
いつも冷静なのは助かるよ…後輩な
のになあ」
「みんな面白くて…優しいデスカラ
少しでも役に立ちたいと思いマス」
「うん…僕もこのバンド好きだな」
「…だから…まったく!」
「知らねーし!」
二人が同時にやかましく降りてきた
「仲が良すぎですよ…お二人」
僕がからかうと
「途中で落としてやれば良かった」
笑いながら先輩が言う
多分…好きなんだろうな
お互いに
「なによ…二人でニコニコして」
僕たちはいろいろ感じていた
少し整理が必要なくらい
帰りのバスの中は皆
行きより多少無口になっていた
そしてまた少しお互いが近くなった
5人目に見守られて僕らは
ひとつ目の決戦へと
向かう