失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「だがな…」
と顧問は真面目な顔で僕たちを見た
ファミレスのテーブルを囲み
一番高いパフェを何故か全員注文
なんでも好きなもの…ではある
なぜみんなパフェになったかは不明
「あんな倍音は滅多に出ないんだぞ
有名なピアニストの名演とか…本当
に息の合った合唱団とか」
顧問は何故か倍音に詳しかった
「例えばカリスマ政治家の声とかさ
人気のある歌手は声がすでに倍音な
んだ…それは聴く人を癒して熱狂さ
せる響きなんだよ」
顧問の話に少しづつみんなが
興味を示してきた
「だからエンジェル・ボイスって
言われるんだ…心に響くからなんだ
心だけじゃない…この波長は脳や体
にも治癒効果がある」
「へぇ…それはスゴいね」
先輩が感心しはじめた
「だからお前らはバンド名に天使が
ついてるんだな…って今日聴きなが
ら本当に実感した…物理だって簡単
にやれるもんじゃない…このチーム
の一体感がなけりゃこんな明瞭な
エンジェル・ボイスはでないしな」
「それはそう思う…な?」
ヤツに振ってみた
「あ…うん…それは間違いない」
「5人目は物理だけど…それを産み
出すのは神業だってことを言いたか
ったんだ…わかってくれるかな?」
「そう言われたら分かりマスガ」
うなずきながら後輩が言う
「確かに神がかりみたいなことはあ
る…だけどそれを引き出すのは人間
であって…しかも赤の他人がこんな
親密に結束して目標に向かえるのが
何よりスゴいことだと思うよ…お前
達ほんと仲良いしな…」
僕はふとあの不良神父のことを
思い出していた