失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「…やせた?」

「ハイ!…いきなり失礼ナッ…!」

…部室での再会はそんな会話から

始まった

それ…セクハラに近くないか?

誰と誰の会話かは容易にわかるよね

すかさず先輩からヤツの後頭部に

アタックが入る

うん…正解だ

「良い音だ!スティックで叩いちゃ

えば?」

後輩に更にアドバイスする先輩

「わかった…わかった!」

「なにがよ!」

「いい感じじゃないか?みんな」




「あたしは…まだ答えは出てない」

と先輩は言った

「…でも復活?」

確かになぜ復活できたか

気になった

「そんなことあたしみたいなバカが

考えて答え出せるわけないから」

先輩はサバッと笑いながら答えた

「あと2週間だよね…みんなと音出

して練習しまくって…それで分かる

って信じてる…他に思いつかん!」

なんて潔い

「…やられた」

ヤツが呟く

「なによ?ここ突っ込むとこじゃな

いから!」

「いや…久しぶりに先輩かっこいい

なって…」

「ひ…久しぶりとは何だ!」

「えーっ!誉めてるのに~っ?」

「練習…始めないか」

とりあえず今は後輩より先に

久しぶりに僕が突っ込む

後輩…僕を見てニコニコしてる

確かに…やせたなぁ

やせるくらい悩んだのかな…

自分がヤツと同じ思考をしてるのを

すぐに気づく…ダメじゃん




先輩だけが今回の回答を語った

ヤツと可愛い後輩は何を思いながら

今から演奏するんだろう




だがそんなことを

思い続けられるような

僕たちのオープニングではなかった



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