失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




始まりから物凄いドライブ感が

部室に充満していた

ドラムのひとつひとつの音に

芯が入っていて

それと呼び合うように

先輩のベースが

バキュンと銃声のように響く

後輩のドラムは元から上手かった

でもこの音は前に増して

シャープで鋭く下腹に響く

たまらないリズムに身体がざわつく

ヤバいくらい

気持ち…良い

指が勝手に弦を滑っていく

僕の音はその厚いリズムの上で泳ぐ

確信を持って行う犯罪みたいな演奏

…変な比喩だ


でもなんか…言葉で

なんて言ったらいいのか



ヤツのボーカルがいつもより響く

前まで感じたやけくそ感と

少し違うのがわかる

はっきりしたよどみない暴力性

ナイフもって暴れてるんじゃない

確実に顎をねらった蹴り

しかも重いヤツだ



ほんと…たまんない

互いが互いの音に乗り込んで

抱きかかえたり突き放したり

ただ合わせてるだけじゃない

この歌という道を

皆で踊りながら走ってる

最後の音に向かって



こういうの陶酔っていうのかな…


初めてだ







< 344 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop