失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
閉会のコールと共に
今年のバンド甲子園は終わった
席に戻ると
兄が通路に立っていた
「あっ…兄貴!」
兄は嬉しそうに笑った
「やったな…」
「あはは…まさかの展開だ」
「…ねえねえ!お友達?」
先輩が話し掛けてきた
「いや…あの…兄です」
「えっ…お兄さん?すみません」
僕は先輩を紹介した
「いつもうちの弟がお世話になって
ます」
「いえ…こちらこそ~…お兄さん
かっこいいですね~!」
先輩が女の子目線になってる
「えー?お前の兄さん?オレも紹介
しろよ」
ヤツが割り込んでくる
「ああ…コイツが噂のリーダー」
「大変お世話になってるみたいで…
これからも…こいつと仲良くして
やって下さい」
「ああ…あの…ご丁寧にすみません
こっちが世話されてます」
なんだか…不思議な光景だ
バンドのみんなと兄が話してる
兄の嬉しそうな照れた顔が新鮮で
ちょっと胸がときめく
「えと…こちら…しっかり者の後輩
…世話になってる」
まだ目の赤いままの後輩だった
「あっ…はじめマシテ」
「ドラム…上手かったですよ…凄く
良かったです」
「あ…ありがとうございマス」
その後後輩は
じっと兄の顔を見ていた
「皆さんおめでとう…じゃあ俺は
退散します」
「あ…ありがとう…寄ってくれて」
「うん…楽しかったよ…」
えもいわれぬ余韻を残して
兄は去っていった