失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
結局健気な後輩の泣いた訳は
その日は聞けず仕舞いだった
帰宅すると母は大興奮で
兄からの会場レポートをそのまま
僕に語って健闘を称え
普段あまり口を出さない親父が
「テレビでやるのいつなんだ?」
とか訊いてきたりして
…その日はお祝いとかで
珍しく寿司だった
その日は兄もバイトを休みにして
僕のお祝いに付き合ってくれた
「…クリスマス以来だけど」
兄がしみじみと言う
「ギター…上手くなったなぁ」
「そうか…俺はお前が舞台でギター
弾いてるの…そう言えばまだ見てな
いな」
親父はビール片手に寿司をつまみ
僕に訊いた
「お前まだ俺のダチからもらった
ポンコツギター使ってるのか?」
「ポンコツって…ちゃんと普通に
弾けるけど」
「電話してやろう…アイツ喜ぶぜ
テレビの日も教えてやろう…舞台の
上でお前があのフェンダー弾いてる
の見たら…泣くかもな」
「泣かないよ」
「いやお前…この歳になると涙脆く
なってだな…」
確かに僕にギターをくれたあの人に
は今日の成果を伝えてお礼を
言いたいと思った
そんなことを考えているうちに
酔った勢いで親父が友達に電話を
掛けていた