失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
兄は独り部屋に残された
ゆっくり浴室でシャワーを浴び
服を着て外に出た
街はクリスマスだった
兄は久しぶりに街の景色を眺めた
「突然俺…思い出したんだ…珍しく
先週お袋から電話があってお前の教
会のライブ…お袋見に行けないから
俺に替わりに行ってもらえないかっ
て…」
母が来れないのは知ってたが
兄に電話したことなんて
なにも聞いてなかった
驚いたことにその電話は
僕が教会でキリストを見て泣いた
あの日だったのだ
不良神父の言葉をふと思い出した
「神は君のことを全部わかってる」