失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
その深夜
僕は兄の本当の状態に
気づかされることになった
いつもの真夜中の逢瀬に
兄は僕のベッドにいつも通り
上がってきた
兄は僕の隣に来てくれた
この時をどれだけ待ちわびたか
言葉では言い表せないほど
暗闇で兄は僕の身体をそっと抱いた
僕は言葉もなく兄にすがりついた
その時兄の息を飲む音が聞こえた
僕が暗がりで兄の顔を見ようとした
その瞬間
兄の身体が小刻みに震えだした
「どうしたの?」
僕は兄の耳に囁いた
兄は首を横に振り荒い息を始めた
「…あっ…あっ…ああっ…あっ」
意味のない喘ぎ声と止まらない震え
「どうしたの?苦しいの?」
僕の問いに兄は答えない
「はあっ…はあっ…あっあっあっ」
震えが強くなる
身体がビクンビクンのた打つ
首を横に振り
それはまるで
悪霊にでも取り憑かれたような
寒気がするような異様な光景だった