失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
二度目の暴発
それは一度目とは違う罪となった
僕の疑心暗鬼が
現実の行動になり
それは起きた
兄が夜に風呂に入ったあとから
僕も続けて入浴する
それは父・兄・僕・母の順で
僕が独りで入浴出来るようになって
それ以来の我が家の規則のように
頑なにそれは守られていた
その日も兄はいつものように
風呂から上がり僕に出たことを告げ
普通に部屋に戻ってきた
僕は替えのトランクスを片手に
いつものように浴室に入り
低い棚の上に置いてある脱衣カゴの
バスタオルの上に
ばさばさっと服を放り込んでいった
その時服をカゴに放り込んだ勢いと
縁に垂れた服の重みで
カゴが棚からひっくり返った
不安定な場所だからよくあること
いつものことだった
だがひっくり返ったカゴを
床から拾いあげてみると
落ちた服とバスタオルの山の上に
兄の携帯がなぜか埋もれていた