失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



小雪のちらつく寒い朝

僕は冬休みの最後の1日を

独りで出かけた

行く場所は既に決まっていた

僕はニットの帽子を深くかぶり

長いマフラーを巻いて外へ出た

寒い

昨日まで晴れていたのに…

だがもうそんなことは

どうでもよかった

ポケットの携帯を握りしめながら

僕は駅への道を歩いていた




もうそうするしかなく

ただうごいた

自分が引き返せないのも

わかっていたし

…ほかにできることを

思いつかなかったといえる

たとえ破滅的とはいえ

なにも出来ないより

このほうがまし

僕は寒さか緊張かわからない震えを

身体に感じながら目的地へと

まるで兵士のように歩いていた

電車を二回乗換え

バスに乗り継ぎ

昼前に目的地に辿りついた

初めて来る場所

こんなことでもないかぎり

二度と訪れはしないだろう

一瞬

「こんな所で何してんだろう?」

という思いでいっぱいになり

少し自分が笑えた



市民総合病院



ここに

あいつがいる

僕はバス停からそのでかい建物へと

歩き出した







< 55 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop