失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



「…一度だけクスリを使われて犯さ

れたことがある…あんな快感…知っ

たら…まるで人間じゃなくなる…猿

みたいに…みんなも俺も悪魔に取り

憑かれたみたいになって…身体から

消えないんだ…どれだけ出し尽くし

ても…足が萎えても身体から快楽の

火が消えない…苦しくて苦しくて…

また親父の元へ…嫌なのに…ヘドが

出そうなのに自分を裏切り続けて…

自分を傷つけて…お前も傷つけて」



兄はうわ言のように今まで

口にもできなかった

忌まわしい淫靡な過去を

吐き出していった

「俺は自分の身体が許せなかった…

同級生なんかの誰とも共感出来ない

忌まわしい性癖も…現実も…」

兄は僕への愛撫を緩めることなく

話続けた

「…悪魔が父親だったばっかりに愛

さざるを得なかった…だけど…俺も

同じなんだ…お前は悪魔が兄だった

ばっかりに…」

兄は大きく息を吸い震えた

「お前を俺は汚し続けてるんだ…俺

がされたことなぞって…いまも…だ

けど…今日…止まらない…あの時の

クスリと同じ…だめだ」

僕は兄に後ろから貫かれたまま

手で口を塞がれて身悶え続けた

兄はずっと僕を汚し続けてると

そう思ってるんだ

僕は愛されたことしか

なかったのに…

僕は首を横に振った

「兄…貴…汚されてない…」

喘ぐ息のなかで僕は口走った

「兄貴に汚されるんならそれで僕は

構わないよ…兄貴が僕を壊すなら…

僕は壊される…」

僕は首をいっぱいにひねり

兄の唇を探した

兄の口に舌を入れ口移しに囁いた

「愛してるんだ…壊してよ…早く…

僕も…もう…狂ってるよ…良いんだ

…兄貴に壊されるなら」

大丈夫…兄貴

狂気の連鎖

僕が終わらせる

だからもう壊されても構わない

僕は悪魔を抱き締めたまま

地獄に道連れに一緒に逝く

だって兄貴

彼に抱かれて…きっと

兄貴もそう…思ったんだよね…

きっと…












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