失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
あの部屋
明け方まで続いた兄との狂宴の
紅い残り火を抱いて
僕はほとんど寝てないまま
始業式をむかえた
…めまいがする
まだ兄の感触が生々しく残って
日常にいるのが辛い
久しぶりの学校の友達に
意識が飛んでるのをからかわれても
大したリアクションも出来ず
呆れられた
…無理だ
僕…生きていけるのか?
日常とかけ離れた不安しかない
この冬休みを越えて
僕の中に残しておいた
この世で生きて行く上で最低限必要
なはずの《日常性》(だったっけ)
は…脆くも消し飛んでいた
どちらが夢?
こんな学校の夢も見るよね…
頭が朦朧としている
いきなりゾクッとあの感覚が
フラッシュバックする
両肩を自分で抱いて教室の席に座り
放心しているしかない
僕はずっとこんななのか?
不便だ
だが日常に戻す気力はない
動機も失せた
兄に逢いたい
互いの身に巣喰っている悪魔が呼ぶ
呼びあって互いに繋いだ首輪の鎖を
引き合っているような…
もうだめだ
明日からどうしよう?
今日が始業式で本当に助かった
高校卒業…出来るのか?
学校が終わる
帰り際部活のやつに会う
明日から部活始まるぜ
お前さ…なんか有ったの?
僕は勘の良いそいつをほめた
人生が消しとんだ感じ
僕はそう答えた
やつは笑って言った
シド・ヴィシャスみたいに生きろ!
え?誰それ?
知らねーのか…ググれ!
そしてYou-Tubeで一日
ピストルズを聴け!
ピストルズ?
うう…セックス・ピストルズだよ
お前パンクスじゃなかったっけ?
そっかー
僕はパンクスだったのかぁ
お前のギターは破壊的で好きだぜ
人生なんか…
やつは中指を立てて言った
FUCK OFF!
…お前良いやつだな
僕は珍しく人を短時間で二回ほめた
僕は兄の待つ家に帰った