失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「脱け殻になった途端…俺の身体は
サディスティックで暴力的な客達の
行為に狂ったように感じ始めた…
まるでお前のいない虚無を快楽で
埋めるかのように…発作は
客のいない昼にも突然起きるように
なった…毎日が性感の地獄だった…
そんな時客の一人から気に入られて
つきまとわれた…俺はあの部屋に
その男を入れた」
兄は言葉を詰まらせた
「俺はその男に狂った」
兄はまるで教会の懺悔のように
僕に陰惨な告白をし続けた
「その男はサディストだった…俺は
奴隷のような行為を俺がこの世に
生きている罰として受け入れた…
俺が生きていること自体が
罪であり人の苦しみなんだと…
俺は自分が壊されていくことに
身体が熔けてしまいそうな異常な
快楽を覚えた…貶められれば
貶められるほどそれは強くなって…
俺は男の熾烈な責めに狂った…
もう戻れない…戻らないほうがいい
いつかこの男に責め殺されたい…
そんなことを渇望していた」
兄はゆっくりと身体を
ベッドから起こした
「でも俺は…戻ってきてしまった」
暗闇に慣れた目の中に
兄が僕を見ているのがわかった
「あの日…突然解放された俺の足は
あの部屋じゃなくて
お前のいる教会へ向かってた」
僕はたまらず兄に言った
「そうだよ…帰ってきてくれたんだ
僕は…僕は待ってたんだ」
「どうしてなのか…わからない
俺が戻ったところでお前の未来を
奪うだけなのに…どうして戻った
のか俺には自分がわからない
今だってそうだ…ずっと変わらない
お前は俺がいたんじゃ幸せには
なれないのを…ずっとわかってた」