失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
僕は息が出来なくなりそうだった
兄貴…やめて
お願いだから
僕から…兄を奪わないで
ああ…僕はようやく
はっきりわかった
未来なんていらないんだ
兄がいないなら未来もない
もし兄がこの世から消えたとしたら
それが本当の致命傷
それは傷つくとか苦しむなんて
可笑しく思えるような死に至る傷
逆なんだ…真逆だよ
僕は少し前に抱いていた不安が
兄を奪われていたこのしばらくの
絶望と悲しみと悪夢の時を越えて
消えてしまっていることに
その時気づいた
僕には大事なものがあるんだよ兄貴
未来より
人生より
日常より
この世より
自分より
僕には…大事なものがあるんだよ
兄貴…わからないのか…未来より
人生より日常よりこの世より…
自分より
僕は余りの悲しみに震えながら
兄にそれを伝える言葉を探した
「兄貴…兄貴…お願いだから…
お願いだから…どこにも行かないで
…お願いだから…お願いだから」
僕は兄にすがりついた
涙で視界が見えない
「兄貴が…兄貴がいなかったら
僕が此処で…ここで生きてる意味が
な…い」
そうなんだ…生きてる理由がない
兄はそれを聞くと
愕然とした顔で僕を見た