失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「お前…なんで…だ…?なんで…?
こんな俺を…こんなやつを…
なんで…?」
兄は嗚咽しながら僕に問いかけた
罪…罪
僕たちを引き裂こうとする
この世という壁
兄を絶望の淵に叩きこみ
罪悪感という業火を点火した
掟という人倫という裁きの剣
なぜ愛し合ってはいけない?
なぜこの世で…結ばれてなら…ない
なぜなんだ
なぜ性別が同じなだけで
血のつながっている兄弟
というだけで
僕たちは愛し合うことさえ罪だと
言われなければならないのだろう?
なぜただ愛し合ったが故に
こんなにも苦しまなければ
ならないのだろう
自分の存在さえ抹消しようとした
でも…兄貴…僕はごく自然に
兄貴を愛してたんだ
ずっと大事だったんだ
かけがえがないほど
自然に…しかも激しく
抗い難いほど強く
「兄貴…あの部屋に…行こう」
僕は兄を見上げた
「な…ぜ?」
「僕にも同じことして」
「どうして…」
「同じことして…僕を束縛して」
「そんな…だめだ」
「隠さないで…ぶつけて…僕に
全部…兄貴の全部が見たい…昨日も
今日も…兄貴がいつもと違ってて
最初戸惑ったけど…僕は…
狂った兄貴がいとおしくて…僕に
きっと僕にしか見られない兄貴の
狂気だから…僕は…兄貴を全部
見たい」
「イヤじゃないのか…?あんなに
無理矢理犯されて…」
「僕は身体ごと…兄貴にあげる…
だから…あの部屋で全部見せて
奴隷の兄貴も…サディストの兄貴も
全部見たい…僕にも分けて…
一緒に狂いたい…僕は
どんな兄貴も…愛しい」
僕が兄の手に口づけると
兄は声を殺して泣いた
いつまでも
いつまでも