失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】






ああ


わかってもらえない


こんなに愛してるのに


わかってもらえないんだ


こんなに愛して…いる…のに



心をもぎ取られたような

なすすべのない本当の絶望感



僕の心…伝わらない


どうやっても


何をしても


兄貴の心に


伝えること


でき…ない


どうしたら


どうしたら…いい?


どうしたら


わかってもらえるの?


兄貴がいなければ


生きてる理由がないっていうことを


どうしたら


どうしたら


わかってもらえるの?


あんなに愛し合っても

抱き合っても

なんで伝わらないの

なんで

なんで

なんで

なんで…


どんな言葉も無力…だ

いや…言葉じゃない



僕が…無力…なんだ



なんの罪もないのに

僕の心をわかろうとしないまま

僕を愛したまま

自分を責めて

去って





「ああああぁぁ!いやだぁぁぁ!」

僕は夢中で枕を手ではねのけ

兄の血のついたカミソリをつかんだ

僕は兄を見た

涙が床に落ちた

言葉じゃ伝わらないんだ

「やめろ!」

兄が叫び窓際から僕をめがけて

飛び込んでくるのが見えた

僕はそのままカミソリを手首にあて

躊躇する間もなく引いた










< 88 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop