失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】





兄はある日父親を捨てた

彼は「捨てた」という言い方をした

あれは僕が中学生の1年だった

僕が初めて

兄に告白した時だった

小さい頃から優しい兄が大好きで

夜に裸で抱き合うのが

何より好きだった

愛撫もキスも物心がつく前から

当たり前の日常だった

秘密だけが僕の束縛だったけど

僕たち二人の時間のためなら

その束縛はかたい絆となった



僕が兄としてでなく

一人の人間として

彼を愛してることに気付き始め

その気持ちが抑えきれなくなるのは

本当に時間の問題だった

男で

しかも自分の兄で

普通の同級生とは全く違う僕

ただの肉親だから好きなんじゃない

それ以上の切ない感情を

僕は兄を通して初めて知った






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