失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「この部屋…お前が見たいという
願いを聞いた時…俺はお前だけには
此処には来て欲しくないと思った
前に話した通り…この部屋は
俺の処刑場…俺の墓場だから…
…だけどお前に俺の思いを聞いて
もらうために…俺がお前を手放し
お前を自由にするために…俺は
この部屋に来ることを選んだ…
お前を手放すために…そしてそれを
お前に伝えるために…」
兄は泣きじゃくる僕の頬を
血まみれの手でぬぐった
「俺の手じゃお前の涙をぬぐっても
お前が血で汚れてしまうだけだな」
兄はいつもの笑いかたをした
諦めと
自分の愚かさに呆れる
わずかな微笑み…
でもその血は
僕のために流した血なのに