失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
どのようにしてあなたを想い
僕らが病院に着く頃には
冬の短い日はとうに暮れていた
僕達は三階のナースステーションで
彼の状況を聞いた
彼の主治医が呼び出され
簡潔な説明が兄になされた
今回の出血は食道静脈瘤破裂
先程止血処置を行ったが
出血が多く意識は混濁している
今夜が山だと
彼の出血は今までで一番多く
1リットルに近い血液を失った
今彼はICUに居て
輸血と点滴を受けている
少しづつ意識が戻りかけているから
家族は面会しなさい
とのことだった
彼はいま生死の境をさ迷っている
僕に「また来い」って言ったのに
僕は彼と話をしなければ
ならなかったのに
「面会に行くよ」
兄は僕にそう言い
担当のナースに面会を依頼した
僕たちはICUに案内された
身体を滅菌され
面会用の白衣と帽子を着けて
僕たちは病室へ入った
彼は血圧計や点滴のチューブの中に
埋もれていた