◆ 空は飛べない
「ねえ雛子さん。僕が今何考えてるか、分かる?」
「分からない」
「うん、そうだよね」
当然だ。当然だ。
分からなくて、知ることができなくて
所詮は他人事で
――…だけど。
知りたいと思うのは
理解したいと思うのは
それを「出来ない」と
そのまま放置したくないのは
私があなたを
好きだからじゃありませんか。
…あぁ。
「ねえ、雛子さん。どうして僕と別れる気になったの?」
それもそのまま。
彼の目を見つめたら
涙が流れてきそうだから
私は部屋の片隅を見て、言った。
「死んでしまうと、思ったから」
数日前の、彼を思い出す。
ベランダの柵に手をかけて
身を乗り出している彼を。
ああ落ちてしまう、と思った。
このままじゃ落ちてしまう、と。
だから私は
鳥が自分を殺してしまう前に
鳥を籠から放そうと思った。