How to win the Game
松本の憂鬱
松本は、長く静かな廊下を歩いていた。
大学の廊下は、まるでここではない、
どこか不思議な世界の空間を歩いているかのような、
そんな錯覚を起させる。
それがまた、彼の好きな瞬間ではある。
「・・・ふっ」
彼の口から洩れた息が、静かな廊下に響く。
彼の顔は無表情である。
しかし、よくよく観察すれば、
彼があえて口元に力を込めているのが分かった。
「・・・川橋・・・」
誰もいない廊下で、彼はさっきまで傍にいた学生の名前を口にした。
騒がしそうで、非論理的のような印象を受ける。
彼からすれば、あまり得意なタイプではないはずだ。
もっとも、
最近よく見かける学生でもある。
唯一この大学で彼が担当している授業に参加しているはずだ。
「・・・さて、次回の授業は何をしようか」
そうつぶやく彼の頬は、少しだけ上にあがっていた。
大きな目の端には、
刻まれ始めた笑いじわが、少しだけ深まっていた。