How to win the Game
腕時計で時間を確認する。
未だ授業まで10分ある。
左手で彼女の方肩を叩こうとした。
しかし、何故か手が動かない。
意思とは裏腹に、体が動くことを拒んだ。
(思っていた以上に、・・・自分は愚かしい人間なのだろう)
そもそも愚かという概念を作りだしたのは人間であり、
いや、ちょっと待て。
―愚かという概念とはそもそも何なのか。―
そんな思考がぐるぐる回ってきた。
いつもの癖だ。
哲学を学ぶ・・・いや、それ以前に、そういう人間なのだ。
小さくあざ笑うかのように鼻を鳴らし、
彼はその手を元に戻す。
そして、教室の窓際の方へ移動し、窓を1つ開ける。
ふわりとカーテンが揺れると同時に、
春の香りが、一気に教室に入り込んでくる。
桃色から深い緑へと変わる風が、彼の隣を通り抜けていく。
こんな瞬間も、時には良いのかもしれない。
そう思える感情の裏付けを考えるのは、この授業の後にしよう。
彼は時計を確認した。
授業開始まであと9分。
あと少しすれば、学生は来るであろう。
窓の下に見えるメンストを行き来する学生を見ながら、彼はそう考えた。