キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
女は今にも泣き出しそうな顔でこちらを見てくる。

・・・なんなんだ、これは

「あっ梓・・・ 私よ、分かる?」

「・・・・・百合?」

誰だか分からない、と言おうと口を開くと全く別の言葉が出てきた。

俺は・・・彼女を知っているのか?

「ゆりって・・・誰? 私は椿よ・・・? ねぇ梓、私のことあんなに愛してくれたでしょう!?」

「・・俺は鬼を愛するはずがない」

梓は女、椿の頭のツノを一瞥しながら、言葉を吐き捨てるように言った。

「嘘、覚えてるもの。 私全部・・・あぁ、そうか」

椿は独り言のようにぶつぶつと呟き終わると梓を睨んだ。

「あの女ね・・・ 私よりあの女が大事だなんて」

「何言ってる・・? そもそも俺とお前は初対面だろう 何故俺の名前を知ってる?」

「あなたの前世を知ってるから。 初対面なんかじゃないわ」

一筋の涙を流しながら言う椿を見て何故か心が苦しくなった。

相手は鬼。
下手な感情を持っては退治できるものも出来なくなってしまう。

梓は感情を殺して目を閉じた。


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