キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
「椿様、助太刀致します」

「槐! ・・いえ、ここは一旦退きましょう」

槐<エンジュ>と呼ばれた白髪で頭に鋭い黒耀石のようなツノを生やし、緋色の羽織りを肩にかけた男が椿のその決断を否定するように首を振った。

「彼の者らにこの場所を知られてしまったのにもかかわらず、生きて帰すなど私は・・・!!」

「梓を傷付けようならば私が許さない。 槐、退きなさい」

「・・・! わかり、ました」

静かに怒りを言葉に込めながら言う椿にこちらまでもが気圧されてしまいそうになる。

槐は梓に憎しみを込めた眼できつく睨みつけて森の奥へ去った。

「梓、また・・逢いましょう」

「・・・・・・」

ニッコリと微笑む椿に何も返せず、棒のように立ち尽くしながら彼女の背中を見送った。

「おーっし! 梓、京華が言いたいことがあるってさ!!」

「えっ、玲・・・!!」

戸惑う京華の背中を無理矢理押して梓の前に立たせる玲。

・・・気まずい

二人を沈黙が包む。

破ったのは梓だった。


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