キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
「梓は傷付けてはなりません
たとえ、彼が私を殺そうとしても。
梓は思い出さなければいけないから
私たちのことを」

そう・・・全てを思い出して私と共に在るべきなのよ、梓。

椿は明後日の方向を睨みつけながらそう言った。

「「・・・御意に」」

二人は椿に跪き、頭を垂れた。













瓦屋根の昔ながらの蔵の前に立つ梓。

ここを開けるのは一体何年ぶりだろうか。

ぼうっと扉の前で立っていると、後ろに人の気配がした。

「おぉーすげ、なんか古いな」

「そりゃそうでしょ あ、梓!」

駆け寄ってきた玲と京華を見て、梓は一つ息をついた。

「京華、久遠はいるか?」

「うん おいで、久遠」

自らの影に話しかけると、影が水溜まりのようになってその中心から久遠が出てきた。

久遠は身震いをして伸びをすると京華の肩に乗った。

「久遠、狐火をくれないか?」

『キュオ!』

梓は用意したランプに久遠が出してくれた狐火を閉じ込めると、それを玲に持たせた。

「じゃあ開けるからな」

そう言って蔵の南京錠の鍵を開ける。

扉はゆっくりと古めかしい音をたてながら中をあらわにした。

「うっわ、埃すごそうだな」

「暗くて中よくわかんないね・・・」

「玲、そのランプ貸せ」

梓が髪を一つにまとめながら言ってきたので、玲は素直に渡した。

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