キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
『キュオンッ!!』

「・・・は?」

手に柔らかい感触があったので目を覚ますと、そこにあったのは小さな獣の前足。

確認するとそれは子狐だった。

「・・・久遠か 少しうたた寝してたな」

『クルル・・・』

羽根のような模様の背中をゆっくり撫でてやると、子狐…久遠<クオン>は気持ち良さそうに声を出した。

「久遠いる!!?」

いきなり引き戸が壊れるかと思ってしまうくらい、強く開けてやって来た女の名前は京華<キョウカ>。

前髪を短く真っ直ぐに切り揃えた彼女は、久遠を見るやいなや駆け寄ってきた。

「やっぱり梓のとこにいたのね!」

「京華うるさい」

「いいじゃない、どうせ一人でしょ」

「・・・・・・・・」

否定出来ず黙ってしまった梓<アズサ>は京華を一瞥して溜め息を一つついた。


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