キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
「え、何 俺さすがにこれは振り回せないんだけど・・・」

「大丈夫だ。 ちょっと痛いだけだから」

「どこがちょっと?! 完璧俺のこのきっれーな手が斬滅されちゃう!!」

「ウザいが・・・しょうがない」

冗談を交えつつ、梓は刃をそっと置いた。

「この上に手を翳して、名前を言ってみろ」

「・・・ちなみにこの方のお名前は?」

「ない」

というより、忘れた。

玲にそんなことが言えるわけがないので、梓は適当にあしらう。

刃が玲を認めれば、きっと形を成してくれるだろうから。

刃にだって意志はある。
つくも神が物に宿るって言うくらいだから。

玲は言う通りに刃に手を翳すと、ゆっくりと口を開いた。

「・・・翡翠!!」

沈黙が部屋を包む。

果たして、刃が小刻みに震え始めた。

刃はその形を変え、二メートルくらいの長さになっていく。

両方に刃がついたそれは、まさしく槍そのもの。

玲はゆっくりとその真ん中に手を伸ばし、握った。

「・・・俺、今ならなんだって倒せそうな気がする」

「阿呆が。 そんなこと言っている暇があったら鍛練してこい」

「おうよっ! 行くぜ、京華!!」

「え、ちょっと待って!」

腕を引っ張られ、無理矢理外へ連れ出されるのを一瞥して梓は箱を閉めようとした。

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