キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
・・・なんだ、これは

蓋を閉めようとした手を止め、箱の中身に手をやる。

出てきたのは一冊の書物。

達筆ではないその本の題名は

鬼百合

多分、最近書かれたものなのだろう。

黄ばみは多少あるが、まだ表紙が丈夫だ。

梓はその本をパラパラとめくっていく。

鉛筆で丸く、小さな字が書いてある。

綺麗な字なのでとても読みやすい。

多分、女が書いたのだろう。

日記のようなその内容に興味なさ気にめくり続けていると、ふとある言葉が目についた。

[今日も梓が私のところに来てくれた]

・・・同じ名前って少し嫌だな

そのページをざっと読んでみる。

[私は梓が好き。
でも彼は鬼だし、何より彼には椿という恋人がいる。

私は鬼を狩る者だからこの感情は駄目。
でも梓が来てくれることがこのうえなく嬉しいのだ。

どうしよう・・・]

「・・・つば、き?」

どういうことだ、何故椿がこれに出てくる?

しかも、“梓"が恋人だと・・・?

椿は鬼だから何百年生きていても不思議ではない。

ならば何故彼女のそばには“梓"がいないのだ?

「・・・ぐぅっ?!!」

その問いに達した瞬間、頭が鈍器で殴られるような痛みが走った。

痛みが増し、目を開けていられなくなった梓はその場に倒れてしまった。

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