キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
桜の花びらを掴んでそっと開く。

花びらは風に拾われ、他の吹雪のような花びらの中へと消えていった。

ひらひらと絶え間なく花びらが落ちていく中、顔をあげると女と視線が合った。

女は優しく微笑みながら手招きしている。

《ほら、こちらへ来なさいな。 ここからのほうが桜が見えますよ》

・・・でも、俺は・・・・・だ

《何を今更! 私はあなたのことを知ってて言っているのですから大丈夫ですよ、ね?》


今日だけ、だからな

そう言って桜吹雪の中へ一歩踏み出し・・・-




「・・・ぅあっ!!!? なんだ、今の・・・」

目が覚めた梓は声を上げながら飛び起きた。

あの桜は家に生えている万年桜だ。
そして、あの場所も間違いなく我が家の庭。

桜吹雪で顔はよく見えなかったが、話していた相手は女だろう。声がそんな感じだった。

・・・では。
女が話していたのは誰だ?

梓に向かって話していたのは分かっている。
夢の視点が話しかけている人だったから。

俺は・・・何なんだ?

この日記を読み進めていけば分かるだろうか?
・・いや、今はやめておこう。

梓はおもむろに立ち上がり、外へと出て行った。






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