キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
フラフラと歩いてると、いつの間にか森の中にいた。

ここに来ると何故か落ち着く。

何か温かいものに包まれているような感覚になるのだ。

梓は自分よりも数倍大きな樹を見上げながら歩いていると、不思議な甘い香りが鼻をくすぐった。

・・・これは、一体?

香りの方へ向かうと、次第にそれは強くなっていく。

果たして、その香りの正体は金木犀だった。

ゆっくりと近付き、甘い香りを感じていると後ろに人の気配がした。

「金木犀の花言葉は真実。 貴方は今迷ってるのね」

「・・! お前はっ」

不意に声がしたので振り向くと、そこには椿がいた。

椿はまるで敵意を示さずに近付いてくる。

「あぁ、大丈夫よ そんなに固くならないで 今は槐いないし」

「・・何が、目的だ」

「目的? 梓とお話したいってくらいよ」

にっこりと微笑む椿に心臓が高鳴った。

・・・いやいや、相手は鬼だ。
そんなことは許されない

「ふふっ 相変わらず貴方ってば神経質なのね 嬉しい」

「・・・? お前は何を知ってるんだ」

まただ。
また、椿が傷ついたような寂しそうな顔をした。

それがすごく悲しい。
どうしたらいいのだろう。

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