キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
「あの、さ 俺、あんたと知り合いだったっけ?」

「・・前はね。 私からは話せないけど」

「何故だ? もしかしたら思い出すかもしれないだろう」

この女・・・椿は何かを知っている。

そう思い問い詰めてみるが椿は黙ったまま口を開こうとしない。

沈黙に耐え兼ねた梓は視線を下に落としながら口を開いた。

「・・最後に一つ、いいか」

「私が答えられる内容であれば」

静かに二人の間に、金木犀の香りを乗せた風が吹き抜ける。

梓はそれが止むのを待って、話しはじめた。

「俺は・・・お前を殺せるだろうか」

前に出会っていたことが分かり、何より椿が鬼に見えない。

普通の人間と話しているかのようなのだ。

「・・・・梓、何なら今 私を殺してみる?」

「・・・は?」

突然のその問いに頭が追いつかなかった。

だが鬼を殲滅させるのが梓の仕事、いや使命なのだ。

迷ってる暇など、ない。

「・・・いいんだな」

梓は刹月花を呼び出しながら尋ねる。

椿は小さく笑って頷くと、目を閉じた。

「・・殺せるものなら殺して」

「言われなくとも」

地面を蹴って椿に近づき、勢い良く切っ先を彼女の身体に埋めた。
手に肉を裂く生々しい感覚がまとわり着いてくる。

これだけは慣れない・・いや、慣れたくない。



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