キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
梓はある違和感に気付いた。

辺りに血が飛び散っていないのだ。
確かに椿には刀が刺さっているのに。

「あなたはまだ、私を殺せない・・・ あなたはまだ自分を知らないから」

そう言い残して椿の身体が一瞬にして椿の花びらに変わった瞬間、急に頭の中に映像が走った。

【・・・、ずっと待ってる 貴方を】

「・・・っ!? これは・・・」

ボロボロに泣きながら椿が手を握っているところが脳裏に焼きついて離れない。

それがとても懐かしい。

まさか・・俺の記憶だとでもいうのか?

椿が握っていた手がまるで己のだとでもいうかのように熱い。

今起きたことといいたげに。

「俺はっ・・・! 何なんだよ・・!!!」

自分がわからない。

俺は鬼を狩る。
殲滅させることが使命。

それなのに。

椿が鬼だと分かっていても、悲しそうな顔をされるとどうしようもなく苦しくなる。

もし鬼狩りでなければ、と思ってしまう。

どうしたらいいんだ。
どうしたら・・・

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