キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
紫丁香花〜紫〜
山奥の小さな湖でじっと何かを待つように立っている京華。

木の葉を揺らす風が吹いたと同時に扇を勢いよく開いた。

《水よ・・・鎮まれ》

風で揺らいでいた水面が氷が張ったかのように動かなくなった。

ここまでは扇なしでも出来る。
問題はここからだ。

京華は深呼吸して水面に一歩踏み出した。

《水よ、我の歩く道となれ》

顔を強張らせながらゆっくりと湖の上を歩いていく。

うわ、出来た! 出来たよおお!!!

ここで集中力を切らせると湖に確実に落ちるので、感動しながらも平静を装う。

「・・・誰、だ」

「へっ? きゃあっ!!」

いきなり話し掛けられたので、集中力が切れてしまった京華は湖に呆気なく派手な音をたてて落ちた。

「え、大丈夫か・・・?」

「はぅ・・びちょびちょだぁ」

呟きながら髪をあげていると、ふと声が頭上からした。
見上げると綺麗な顔立ちの青年と目が合う。

・・・うわ、この人格好良い!!

自分が置かれている状況を忘れ、目の前の青年に魅入る。

真っ白な長髪に蒼い瞳。

まるで太陽を知らないかのような透き通った白い肌など、人間離れした美しさを持つ青年は困った顔をしながら口を開いた。

「・・とりあえず、上がったら?」

「・・っあ! は、はい!!」


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