キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
あからさまに嫌そうな顔をしながら、椿は溜め息をついて槐を見た。

「エン、梓を傷付けるのは駄目ということを、頭においておきなさい」

「嫌です! いくら椿様が挑発したとはいえども、それに乗って殺そうとするなんてっ・・・!」

怒りに溢れたその目は椿から逸らすことなくじっと見つめ続けている。

多分、ここで言いくるめなければ彼は梓のもとへ行くだろう。

それだけは避けねばならない。

そうしないと・・・私は・・・

「梓は、やっと記憶の一部を取り戻してきたみたいだから・・、ね?」

「・・・・・・御、意」

渋々頷く槐を見てホッとした。

落ち着いたところでふと椿はあることに気付いた。

「ところで・・羽織りはどうしたの?」

「・・あっ!! や、その」

急に先程までの雰囲気とは違い、しどろもどろになる槐。

めずらしいわ・・・槐が取り乱すなんて

「怒らないわ、話して?」

「じ、実は・・人間に貸したままでして」

「人間に!!?」

人間が大嫌いなのにも関わらず、自分の物を貸すとは思ってもみなかった。

明日は絶対雨、いや嵐かも・・・

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