キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
その人間のことがとても気になる。

女の子ならいいけど男の子だったら、色んな意味で疑ってしまう。

「その貸した人間ってどんな子なの?」

問うと槐は言いにくそうな顔をしながら椿を見た。

「その・・梓、様の側におられる女子です」

「そう、よかった・・・」

とりあえず男の子じゃなくて一安心。

だがまさか梓の知り合いとは。

しかもその子と分かってて羽織りを貸すなんてまさに合縁奇縁だ。

槐は椿の安堵の理由が良く分からないらしく、首を傾げていたがそれは放っておく。

「また会えるといいわね」

「えぇ。 羽織りを返してもらわねばいけませんから」

「・・楽しみ?」

冗談混じりにそう言うと、槐の顔がほんのり赤くなった。

この子、こんな顔するのね・・・

いつも無表情で何を考えているか検討もつかないが、今ならわかる。

楽しみなのだ。彼女と会うことが。

多分、初めて人間と一対一で話したであろう槐にとってそれは未知との遭遇といっても過言ではない。


願わくば、槐が彼女と少しでも仲良くなってくれるように。

今はただそれを願うのみだ。

< 30 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop