キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
『うっわ、お前さん神に敬語も使えへんの? まぁええわ ワシは万年桜の宿り神の月影や』

ふふん、と胸を張ってくる月影<ツキカゲ>。

こんなに百面相な神がいるとは思わなかったので、正直拍子抜けだが一応本題に入る。

「月影さん、聞きたいことがあるんだけど」

『あぁ? 気が向いたら答えたるわ』

・・・一応聞いてくれるのか。 コイツ意外といいやつなのかも

月影の一面に驚かされながら、梓は口を開いた。

「梓って知ってるか? いつだか分からないけどここに来たことあるみたいなんだ」

『梓って・・・お前さん以外に誰がいるん?』

「いや、俺じゃなくて・・鬼?の梓」

『・・・え、』

急に月影の表情が強張った。

何を言ってるんだ、といいたげなその目が梓を射抜く。

『お前さん何も覚えてへんの? ・・いや、それはないはず』

「・・俺、何か忘れてるみたいでそれを思い出したいんだ」

そうすれば、きっと椿のことも思い出せるはず。

たとえそれが、目を逸らしたくなるようなものであっても。

梓をじっと見つめて言いづらそうに口をパクパクと金魚のように動かす月影。
意を決したのか、彼はゆっくりと話し始めた。

『椿のこと・・思い出したいんか?』

「なっ!? なんでそれを!!」

『そりゃあワシは神やからな 自分に都合のいいときだけ聴こえてんとちゃうで』

「・・・最、悪だ」

がっくりと肩を落としていると、そこにポン、と手が置かれた。



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