キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
見覚えのある女に悩んでいると、その隣から別の声がした。

《・・いつまで俺はここにいたらいいんだ?》

あれ、なんだ どっかで聞いたことある声・・・

低い声の主を見ると、真っ白な髪を肩で切り揃えた男がいた。

その男の頭には黒いツノ。

紛れもなく鬼だ。

《もうちょっと! いいでしょ、梓!!》

《えぇ・・・ 俺ここ嫌いなのに》

あ、梓、だと・・・?

あの鬼が梓。

椿の大切な梓。

ゆっくりと踏み進め、その“梓"の顔をみて驚愕した。







・・・俺と、同じ顔だ





嫌そうな顔をしながら言葉を紡ぐ梓の顔は、間違いなく同一だ。

生まれてからずっと見ている顔を見間違うはずがない。

その場から動けずにいると、“梓"が桜の木に目をやろうとしていた。

その時。


目が、合った。

血のように真っ赤なその目が確かにこちらを見ている。

《・・咲、誰だあれは》

「・・・え、」

咲って・・・まさか

その結論に達した瞬間、目の前が桜の花びらに包まれ・・・ー











気づけばいつの間にか、目の前に二人がいなくなっていた。

ああ、戻ってきたのか・・・

立ち尽くしていると、目の前に月影が蜃気楼のように出てきた。

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