キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
ポタポタと畳に染みが広がる。

声を押し殺して泣いていると、不意に手の甲に暖かいものが乗った。

『大丈夫・・・?』

「・・・久遠っ?え、お前喋れたのか?!」

口は動いてないが、確かに言葉が聴こえる。

いや、聴こえるというよりも頭に響いてくると言ったほうがいいだろう。

梓は突然のことにうろたえながら久遠を見つめた。

『・・・本当に梓なのね・・・ あぁ愛しい人、再び巡り逢える時がくるなんて・・・!!』

「何言ってる、久遠・・・」

喜びに浸る久遠(?)についていけない梓は状況に追いつかない頭でなんとか質問をした。

『くおん・・・? あ、この子狐の名前かしら。 私は違うわ、ちょっと遠いとこから意識を飛ばしてるだけだから』

「…良く分からんが とりあえずアンタが変だってことは良く分かった」

『へ、変?!! ひどい!!』

この声の主が久遠でないことは分かった。

だが、それしか分からないとも言える。

声の主が言っていることが半分以上分からない。

愛しい人という意味も意識を遠くから飛ばしてるという意味も。


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