【企】携帯水没物語

数字以前の算数の時点で苦手だった。

本当に“1+1=2”さえも受け入れられなかったくらいに。

“+”という記号でどうして1と1が合体するのかがわからない。

そんなこと気にしなければいいのに、どうしてもつまずいた。

頭で理解しようとしても覚えようとしても受け入れてくれない。

何がわからないのか自分でもわからない。

周りが平気でやっていることができなくて、悔しかった。

わからないんじゃない。

だけど、この気持ちはわからないとしか言えない。

わかってる、
わからない、
わかってる―…
わからない自分が一番くやしいのに、言葉にならない。

新しい記号が出てくるたびに同じ思いをする。

“√”も“θ”も“∫”も全部嫌いだ。

だから、数学は嫌い。


ついでにあの教師も嫌いだ。

いかにもわたしがイメージする大人。

“最近の若者は”と言うタイプの大人。

今一番会いたくない大人だ。


自分が貧乏揺すりをしていることに気づいて驚いた。

無性にイライラする。

筆箱からカッターを取り出して前の席の子の背中に刃を向ける。

わたしがこのまま振り上げて、降り下ろしてもきっと気づかなかい、無防備な背中。

その気になれば、殺すことだって、簡単に。

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