【企】携帯水没物語
「…東佳?どうした?」
万里子は怪訝そうにわたしを見つめていた。
「和樹が、弟が―…産まれるって」
「!、どうするの?病院に行く?」
万里子はわたしの家の事情を知っているからか、慎重に言葉を選んだ。
「行く」
他に選択肢なんてないのだろうし、もう逃げてもすぐに捕まるだろう。
万里子はそっか、と頷いて窓の外を見た。
「正門は無理だね」
正門はあいかわらず人が押し寄せていて、通れそうにない。
「南門なら行けるよ」
再び戻ってきた悠哉くんに教えられ、万里子はわたしの手首を掴んだ。
「わたしも門まで行くから」
「いいのに……大丈夫だよ」
「いいの!!どうせ先生達いないから」
万里子はわたしが遠慮しているのをあっさり見抜いた。
確かに先生達はみんな正門にいるけど。
「…ありがと」
「いいって、早く行かないと」
「俺も行くから」
「ありがとう」
二人に感謝しつつ、わたしは走った。
廊下は走ると怒られるけど、今は先生達はいないから問題ない。