【企】携帯水没物語
病院で、陽人さんはわたしの隣を離れなかった。
わかってる。
これで、わたしは家族から消える。
わたしはお母さんに和樹ができたとき、うれしかった。
はずなのに、うれしいはずなのに、どんどんわたしは小さくなっていく。
もうすぐ、その瞬間がやってくる。
おめでとう陽人さん
お父さんだ
本物のお父さんになったんだよ
陽人さんは泣いてた。
わたしはただ黙って見ていた。
「……消える」
ごめんお母さん
もう苦しい
「東佳さん?どこいくの!?」
知らない。
どこでもいい。
陽人さんの手はわたしの手首を掴んだ。
「ここにいてくれ」
「放して」
「だめだ」
「なんで?」
「え?」
「わたしは家族じゃないよ」
沈黙がおりた。
一瞬、ほんの一瞬、陽人さんの力が緩んだ。
心に、チクリと何が刺さる。
こなければよかった。
「家族だなんて一度も思ったことない。わたしと陽人さんは他人だよ」
「……ちがう」
「ほんとだよ」
「お父さんはわたしとお母さんを捨てた」
「お母さんもわたしを捨てた」
「東佳さんっ」
「わたしはいないほうがよかったでしょ?」
「東佳っ」
わたしは陽人さんの手を振りきって逃げた。
振り返りたくなかった。