【企】携帯水没物語
いつもより三十分早く起きた。
リビングに行くと、制服姿のわたしを見て、お母さんは驚いた顔をしていた。
「学校、行くの?」
「ぇ…ああ、うん」
お母さんは一瞬泣き出しそうになって、それから笑って言った。
「早く言わないとダメじゃない。お弁当ないわよ?」
「いいよ、今日は学食にする」
テーブルの上には手早く朝食が並べられた。
「あんまり無理しちゃだめじゃないの?」
「その分東佳がお手伝いしてくれるでしょ?」
二人で笑いあった。
いつぶりだろうか。
すると、嫉妬したのか和樹が泣き出した。
「ああ、もう、ほら」
お母さんはすぐに和樹を抱き上げてあやしはじめた。
あの日、病院に戻ったわたしは泣いてしまった。
“わたしの弟
東佳の弟
…―生きてる”
「和樹、いってきます」
わたしは笑って手をふった。
「和樹、お姉ちゃんがいってきますだって」
そういうお母さんの目には涙がたまっていた。
わたしはもう一度手をふって家を出た。