【企】携帯水没物語

陽人さんと別れて、学校までも、あと、少し。

途中で万里子と行き会った。

万里子はしばらく何も言わないで黙ってわたしの隣を歩いていた。

それから、ふと立ち止まって、わたしを見つめてた。


「東佳、背伸びた?」


あまりにも突拍子のない質問に、咄嗟に答えられないわたしを見やって、万里子は続けた。


「うん、やっぱ大きくなった。何ていうか……シンプルになったよ、東佳は」

「何言ってんの」


でも、それもいいかもしれない。

わたしはきっとシンプルになった。


「万里子、寄り道、していい?」


わたしは万里子の返事を待たずに、あの日、わたしが水没しそこねた橋へ向かった。


< 67 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop