海より深く 空より広く
「あなたは私が連れて行くから。」
学校から帰ってきて、
リビングに入るなり母は唐突に
私に向かってそう言い放った。
唖然としたまま、
立ちつくしていると
奥の部屋から父は姿を現した。
「藍…おかえり」
父は気まずそうに表情を曇らせた。
「この子は私が連れて行きますから。」
母は父に向かい冷たい視線を向けながら
棘のある言い方をした。
「佐枝子、藍が居る前でやめなさい。」
「何故?いいじゃない。藍に話をしなきゃ。」
「冷静に話をするのが先だ。」
仲の良かった両親が目の前で
罵り合う姿は未だに覚えている。
「やめて、喧嘩しないで」
二人の間に立ち、
仲裁をするつもりが
恐怖に変わり足が震え
泣きだしていた。