dessin
俺には死が見えるんだ。
いや、その比喩の仕方はおかしいのかも知れないが。

美大に入っていなかったら変人扱いだったろうに。まぁ、美大でも既に変人扱いなのだが。

綺麗な花の廃れた姿。勿論空や人もまた然り。

俺は生の無いモノを描くんじゃない。
生の無いモノ、しか、描けないのだ。

デッサンなんて、謂わば記憶力だけで描くようなものだから。
こんな俺でも普段は普通の世界が見えているのだ。
こんな目はいらない、のだがこれがあるから賞を総ナメに出来たのだけれど。

俺はこんな能力を持って直に悟った。
俺はきっと死が近いのだと。
死に片足を突っ込んでいるからそちらの世界がみえるんじゃないかと。
まぁ、臆測は臆測でしかないのだけれど、きっとそうだ。

昨日の夢も、ここ最近見ている気がする。というより、これもまた夢で、明日起きれば同じ様な日常が待っているのかも知れない。


そんなとき、視界の端に何かがチラついた。
それを辿れば、オッドアイの黒猫がこちらを見ている。
オッドアイなんて、高そうな猫、こんな所にいるのか。
…いや、しかし。今日はたくさん猫を見た気がする。
しかもコイツはアイツが長谷川に連れて行かれた後女子が言っていた「可愛いオッドアイの黒猫」ではないのか。
じっとこちらを見つめているオッドアイは、微動だにしない。
俺も視線を離せずずっと見つめている。

不思議なことにそのオッドアイに死を見ることはなくて、俺はパチリとまばたきをした。


「あれ?」


その一瞬に、猫は居なくなってしまった。

俺は短くなったタバコをもみ消せば、ゆっくりと起き上がる。
死を見ないことが少し気持ち悪くて、何かを飛ばすように少し首を振った。

それから、午後はサボることにして、ゆっくりと寝転がればジワジワと来る睡魔に身を任せて眠りについたのだった。


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