dessin
「あ、いや…」
「…俺が見たのは、お前が俺の背後から彫刻刀を握りしめて歩いてくるって夢」
「…で…?」
「いつもみたいにヘラヘラ笑ってるかと思ったらいきなりグサッとやられてさ?そのまま連続で刺されたって感じ。助けを求めようとして、もがいたらさ?お前はニッコリ笑ってやがんの。超怖いし!」

俺は覚えている夢の話を努めて明るくいつもの口調で言葉にした。夢ってのは案外断片的にしか思い出せなかったり、すぐに忘れてしまうものだろうけど、俺にはドラマを見ていたかのように、はっきりと思い出せる。
言えばコイツは眉を寄せて一瞬青ざめた気がした。

長谷川に何を吹き込まれたのだか。
長谷川という男は俺と同じ様に変だ。あの男の言葉は何故か自分の芯に触れる気がする。
ギターの弦を弾くように、俺の芯を鳴らす。
あの両目は何を見ているのだろう。
俺と同じ様に死や生が見えるのか。いや、東は予知能力だと騒いでたっけ。
人の話を聞きながらも案外こうやって考えてしまう癖がある俺は、結局話を聞き流してしまうからかあまり覚えていない。
まぁ、軟派な見た目からして軽いと思われているから、それに対して本気で注意を受けたことはない気がする。
軟派な見た目とは案外使えるものだ。
これで俺が真面目な見た目であり、死には取り付かれて更に人の話を聞けないくらいに思考しているとなれば、尚更変人ではないか。
軟派な見た目とは使えるものなのだ。


「同じ夢、見たんだ」
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