dessin
ベルト部分は金具で、少し上等なものらしい。
今は9時2分。
止まっているなら壊れているはず。
壊れているなら外そうと、金具部分を引っ張ったりしてみたが、どうも外れない。
何度か試したが、もう無理だと直ぐに諦めた俺は、そのまま着けておき、後で油でもさそうと思い。
そこから手を離した。
玉木が訝しげにこちらを見る。
「なに。」
「なに、その時計。」
「知らね。」
「なんだよ。」
「酔って買ったかな。」
「バッカじゃね。」
「るせ。」
ガチャガチャと互いにデッサンの道具を出しながらそんな会話をする。
玉木とは入学当時からの友達で、こうやって何かと組むことが多い。
茶髪にハッデハデなシャツから、軟派な性格が伺われる。
見た目にはそぐわず、と言うと失礼だが彼の実力は俺は勿論、教師や学校全体の生徒までが太鼓判を押している。
しかしながら、彼の趣味は変わっていて。
「生きてる俺を描けよな。」
「勿論。デッサンだからな。」
彼は生を感じないものを描写する。
彼には生きた花すら、枯れ果てたように見えるのだ。
「そういえば。今朝変な夢見たぜっ。」
「あ?どんな?」
「お前に殺される夢。」
「は?」
「アトリエでさ?彫刻刀でメッタ刺し。」
「…キッモイ。」
「そう言うなよ。それで俺は朝から創造意欲が掻き立てられてさ?一仕事やってきたワケよ。」
俺はヘラヘラと笑いながら違和感を感じていた。
デジャヴ。
この場面を何処かで見たことがある。
しかし、俺はそれ以上考えなかった。
ただの気のせいだと思ったんだ。