躾と束縛と愛情【短篇】
「おい、今帰りか?」
「あ、亮! そうだよ」
普段と変わらない、
変わらない筈だった下校風景。
何気なく遣った視線の先、そこに在る彼女に気づいて声を掛けたのはオレではなく。
ずっと、彼女のいちばん近い距離にいた幼なじみの彼。
「久しぶりに一緒に帰ろうぜ?」
「え、うん。いいよ」
常とは違った、穏やかにも見える表情をする彼に彼女も嬉しそうに笑みを見せて。
「なら帰るぞ」
彼の言葉に頷いて歩き出す彼女は、惜しげもなく笑みを浮かべていた。
そして、オレはというと、ただそれを眺めて。
部活の練習に遅れるなんてことも頭になく、見送っていた。
「──…………」
嗚呼、笑わないで。
笑わないでほしい。
オレの居ない場所で、お前に想いを寄せるそいつの隣で。
微笑まないでくれ。
そう思うことがオレの我が儘であることは百も承知だけれども。
胸が締めつけられるように、痛むから。
どうか、お願いだから。
オレ以外の他人に微笑みかけないで。