ハネノネ
ナキを家まで連れて行った。
玄関に入れて、家にあげた時だった。
「ユウヤ」
ナキが突然、僕の名前を呼んだ。
幼い綺麗な声に乗った自分の名前に、胸が高鳴った。
精一杯平静を装って返事をした。
「どうした?」
「生きていたい?」
唐突な質問に驚いた。
近々死んでしまう子供相手に、なんと答えたらいいものか、と少し考えた。
「今更こんな世界で生きていたい、とは思わないな」
「そう…」
「ナキはどうなんだ?」
死が間近に迫っているナキは、この世界をどう捉えているのか。
素朴な疑問だったが、ナキは思いのほか強い目で言った。
「わたしは死なないよ」
変色しきった緑色の目が、綺麗な反面気味悪さを含んでいた。
自分がハネの病だということを理解していないのだろうか。
それならそれで、わざわざ宣告する必要もない。
逃げるようにナキから目を逸らした。